ボランティア活動を行い、実費や交通費、さらにはそれ以上の礼金を得る活動を「有償ボランティア」と呼ぶことがある。労働に見合った対価より礼金が少なくなるので、労働者が適用される労働基準法や最低賃金法の適用を受けない。
これを悪用して、有償ボランティアを隠れ蓑として安い賃金で労働者をはたらかせることが行われている。ブラック企業でのことかと思えば、地方自治体でも行われている(堺市の例)。以下、これを「有償ボランティアもどき」と呼ぶ。
総務省の会計年度任用職員制度の導入等に向けた事務処理マニュアル(第2版)のQAの問1-10 の回答に、「あくまで協力依頼を受けて行うようなボランティア活動に従事する者を地方公務員として任用する必要はないが、会計年度任用職員等として行うべき事務に該当する場合には、その実態に応じて任用することが適当である。」とあるように、有償ボランティアとして業務を委嘱するのは、あくまでもボランティア活動であることが前提である。堺市のように職員として採用せず、有償ボランティアもどきとすることは、労働基準法などとともに地方公務員法にも違反することになるだろう。
世田谷区議会の令和元年9月決算特別委員会会議録第二号に、中村政策経営部長の答弁として、「「往古来今」の話でいえば、この刊行に当たっては、専門部会を設けて、各委員には、その分野の執筆を依頼して、記念誌に掲載することを前提に、委員の委嘱をして、執筆料を含む報償費を払っているところです。なので、その委員の執筆していただいたものは記念誌には載せることはできると考えています。」とある。給与ではなく報償費とあるので、専門委員を特別職非常勤職員ではなく、私人として委嘱されていたようだ。谷口さんは源泉額(3%)が引かれていたそうだが、所得税基本通達28―7に従って報償費が給与として扱われたようだ。
世田谷区は有償ボランティアもどきとして専門委員を委嘱していたようだ。
谷口さんは、ボランティアとして委員になることを説明され、勤務場所や勤務時間を定められるなど指揮監督されることもなく、自由に調査や執筆をしたというのだろうか。
委員として委嘱されたら、普通なら職務専念義務や守秘義務が課されていると思うが、そのような義務はないことを説明したのだろうか。説明しないで委嘱することは欺瞞である。
委員として集めた古文書などの資料は、有償ボランティアもどきなら委員個人が所有者になるし、撮影した写真や執筆した原稿の著作権も、委員個人にある。
「世田谷往古来今」の発行の段階では、各委員から著作権の譲渡または使用許諾の契約をしていないので、著作権法違反だったようだ。有償ボランティアもどきとしての報償金を支払っていただけで、著作権使用許諾に見合った対価を含むとは到底言えないので、著作権の使用許諾の暗黙の了解があったとは言えないだろう。
谷口さん以外の委員との著作権譲渡契約は過去の著作物の著作権も含んでいるのだろうか。承諾書には過去のものも含まれていないようにも見える。少なくとも区は谷口さんから著作権の譲渡も使用許諾も得ていない。今からでも谷口さんに対価を支払って、著作権の使用許諾をしてもらう必要がある。
谷口さん以外の委員との著作権譲渡契約には、見合った対価の支払いは含まれていたのだろうか。含まれていないとすると独占禁止法の優越的地位の濫用になるだろうし、公序良俗にも反する。
東京都労働委員会は、谷口さんの勤務実態により労働者性を検討していくことになるだろう。
本来、特別職非常勤職員として委嘱されるべきもので、当然に労働者として扱われるべきとされるかもしれない。
労働者性があるとなれば職務著作の問題が生じてくる。