耳コピ事件3

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というニュースがありました。過去の判例などを調べてみました。

 

スコアを無断複写する行為の不法行為該当性を否定した事例に、この事件の地裁判決などの解説があります。創作性のない表現をデッドコピーした場合における不法行為成立の可否には、ヨミウリオンライン事件などの解説があります。

 

他人が用いているものを、デッドコピーや模倣をして用いる行為、すなわちフリーライドについて、フリーでないもの、すなわち著作権などで保護されているものを利用する場合は許諾を得てないと当然に違法になりますが、保護期間が過ぎるとフリーになり、青空文庫のように自由に利用できるようになります。

 

一方、フリーなものをフリーライドする場合、木目化粧紙事件のように商品の出所に混同を引き起こすなど、利用においてあきらかに問題がある場合は、自由競争の範囲を逸
脱し、他人の営業を妨害するものだから、当然に不法行為とされているようです。

日本において、他人の物を利用するときは、承諾を得たり、お礼をしたりすることが礼儀となっているからでしょうか、法律で独占権が定められていないフリーのものだからといって、労力や費用をかけて制作したものを、断りもなく利用することを違法とする判決がありました。ヨミウリオンライン事件の高裁判決と、翼システム事件、[スーパーフロントマン]中間判決です。

 

ミウリオンライン事件高裁判決では、ヨミウリオンライン(YOL)のリンク付き見出しのデッドコピーの配信に対して、YOL見出し業務と競合する面があり、社会的に許容される限度を超えているとして不法行為と判断していますが、これだけではいかなる法律や憲法に抵触しているのか明らかでありません。

YOL全体の業務からすれば、リンク付き見出しの配信により、YOLの閲覧者が増えるのであるから、メリットがある話であり、YOLの業務が妨害されるわけでもなく、社会的に許容される限度を超えているとする理由が全く理解できない判断です。

リンクお断りというサイトも多くあり、YOLがリンクを有料としていた時代背景の判断でしょうが、そのことを前提しても納得できない判決です。YOLやYaHooがリンクお断りとなっているのにリンクをしたことの違法性を問うならまだ理解できるのですが。

 

翼システム事件([スーパーフロントマン]中間判決)では、費用や労力をかけて作成したデータベースの複製利用について、競合する地域で販売する行為は、著しく不公正な手段としていますが、著しく不公正な理由が理解できるように説明されていませんし、法に違反することも明らかではありません。

データーベースにプロテクトをかけるとか、販売の時に複製を制限する契約を付すなどの、データベースを保護する手段を採用していなかったようなのに、保護しようともしていないデータベースを利用することが不公正とされるのは、まったく理解できません。

 

これらの2つの判決は、労力や費用をかけて制作したものをデッドコピーなどして利用し、競合することを不法行為としています。著作物のように、著作権法により独占権が認められているものではなく、独占権などの特別な権利が立法され定められていないものにもかかわらず、その利用行為を不法とするのは、司法が立法府のなす領域に土足で踏み込んだ司法の暴走といえるものです。

例えば、ジェネリック医薬品も、多大の労力や費用をかけて開発されたものを、オリジナルの医薬品と競合して販売されるものですが、違法にはなっていません。

 

北朝鮮映画事件での最高裁判決は、営業妨害などの不法行為がない限り、フリーなものをフリーライドすることは自由であることを示していると思われます。フリーでないものを法で定めるのは立法府であり、データーベースや版面権を保護すべきとの指摘がなされているとしても、司法が立ち入る範囲でないことを示した当然の判断と思われます。北朝鮮映画事件最高裁判決の射程を限定する考え方もあるようですが、司法の範囲を逸脱し、法に定めのない事項を違法としてはならないことは、射程どうこう以前の問題です。

なお、営業妨害は、法律に定めのない場合も、営業の自由を損なうものだから人権侵害という理由で憲法違反になると思われます。

フェアリー社の高裁判決は、ニュースをみるとこの文献のp.415にある田村善行教授の考え方に沿うもののようで、北朝鮮映画事件の最高裁判決で示した考えに逆らって、司法のなせる範囲を逸脱し、立法府がなすべき領域に踏み込んだもので、三権分立を定めた憲法にも抵触するようにも見えますがいかがなものでしょうか。

フェアリー社事件の高裁判決は、単にフリーライドを違法としているのではなく、GLNET+のビジネスが、楽譜の模倣以外の点で、フェアリー社に対する営業妨害になる不法なものとも判示している妥当な判決かもしれません。早く判決を見てみたいものです。

 

出版者の権利についての諸問題が、上野さんの出版社と隣接権制度にまとめられていて興味深いです。

また、古典のテキストデータ化についてまとめられているものがありました。採譜にも繋がる問題とも思いますが、権利化されないことが古典のテキストデータを阻んでいるというよりもニーズが低いことが一番の原因とも思えます。採譜はコピーバンドが以前から行っていたことですが、採譜されたバンドスコアは、著作権の問題で無断で配布できないことから、コピーバンドで秘蔵されることが多かったと思えます。